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春原久徳(セキュアドローン協議会会長)|第1回 ドローンの過去・現在・未来を語ろう

セキュアドローン協議会会長・春原久徳インタビュー

目次

第1回  ドローンの過去・現在・未来を語ろう
第2回 地方と途上国の空で活躍するドローン

取材・文/河鐘基、写真/荻原美津雄、ロボティア、取材・編集/FOUND編集部

セキュアドローン協議会長の春原久徳さん

—— 今や知らない人はいない存在となったドローン。その存在に注目が集まり始めたのは、わずか数年前のことです。


最近では、テレビや映画の絵作りに、ドローンで撮影された動画が頻繁に活用されるようにもなっています。「ドローン=空撮」という図式は定番ではあるものの、ドローンの実力はそれだけにとどまりません。

物資の輸送や農業、建築・インフラ整備、調査活動、エンターテインメント、はたまた新しい移動手段までと、さまざまな分野で利活用が想定されています。

つまりドローンは、将来のわたしたちの生活の土台に深く入り込んでくるのです。

そこで今回は、セキュアドローン協議会の会長、そしてドローン・ジャパン社の代表を務める春原久徳氏に、昨今の「ドローン事情」についてお話を伺いました。

「ドローンの今」そして「ドローンのある未来のわたしたちの暮らし」とは、どのようなものなのでしょうか?

第1回 目次
・ドローンとラジコンの違い
・ドローンを世界に広めたDJIとファントムって?
・ドローン、人間に代わり空で働く
・データ集めに空ゆくドローン

ドローンとラジコンの違い

まずはじめに、そもそものことを知るところからはじめましょう。ドローンの基本を学ぶために最初に発したい問いは、

「ドローン」とは何か?

というオーソドックスなものです。

ドローンを知ったつもりになっていても、意外に知らないのが、この定義です。ここで改めて整理しておけば、きっとよりクリアにドローンのことが理解できるはず。

一見、スタイリッシュなだけのラジコンのようにも見えなくもないのですが…。ラジコンとドローンの違いはどこにあるのでしょう。

春原氏:
「その定義は
 時代や技術状況によって変化していますが、
 僕自身はラジコンとドローンの違いは
 非常にシンプルだと考えています。
 それはフライトコントローラーの有無です」

フライトコントローラーとは、さまざまなセンサーが搭載され飛行を制御するための部品です。どんなセンサーが載せられているかというと…、

◎フライトコントロールに搭載されるさまざまなセンサー

・GPS(衛星測位システム)
・ジャイロセンサー(別名、角速度センサーと呼ばれ、回転や向きを検出できる)
・加速度センサー(1軸、2軸、3軸の種類があり、3軸のものだと、上下、左右、前後の3軸の方向に対して、傾き、方向、重力を検出できる)
・磁気センサー(磁場・磁界の大きさや方向を計測できる)
・気圧計センサー(大気圧を測定し、高さを測る)

などのセンサーが積まれているわけです。

春原氏:
「フライトコントローラーを搭載することで、
 ドローンは
 自律的に飛行する能力
 を得ることになりました。
 つまり、人が手で操縦しなくとも、
 自動でのホバリングや
 さまざまな飛行タスクが
 可能になったというわけです。

 なお、多くのドローンが
 マルチコプター
 (プロペラが4ついた機体)タイプなのは、
 フライトコントローラーを
 活かしやすい形状だから
   という理由があります」

なるほど、つまりドローンがラジコンと違うのは、

・自律飛行
・自動ホバリング
・さまざまな飛行タスク実行の可能性

という点にありそうです。

そんな新しいタイプの飛行物体、「飛ぶロボット」などとも称されるドローンが世の中に普及し始めたのは、「2005年頃」と春原氏は指摘します。

それ以前はいわば「ドローン紀元前」で、ドローンが主に活用される場は、軍事の世界においてだったのです。

ドローンを世界に広めたDJIとファントムって?

では、2005年前後から、どんなことが起こったのでしょうか?

春原氏:
「2005年以前は、
 フライトコントローラーが
 ひとつ100万円ぐらいしたんです。

 それが年を追うごとに安くなり、
 現在では1万円くらいで買える状況になった。
 
 そのようなコストの低下が進み、
 ドローンの時代が
 本格的に始まる分水嶺となったのは
 2010年頃あたりでした。

   その後、
 大きなターニングポイントとなったのは、
 現在、世界一のドローンメーカーとして
 成長した中国のDJIが、
 2012年当時に
 『ファントム(Phantom)』という
 コンシューマー用機体の発売を
 開始したことです。

 2014年に『ファントム2』が
 発売された時期には、
 アマゾンが物流にドローンを使う
 と公言し世間の注目を集めました」

DJIが発売したファントム

「DJI」や「ファントム」は、ドローンの分野では有名なようですが、その中身は、どのようなものなのでしょうか?

DJI
2006年、フランク・ワンが創業したドローンの世界的企業。民生用のドローン市場では世界シェアの7割。本社は中国・深セン、他にもアメリカ、ドイツ、日本、中国(北京、上海、香港)など、世界に拠点を構えている。現在、グローバルの社員数は11,000人以上。
ファントム(Phantom)
2012年12月に発売された民生用のドローン。翌年2013年、同シリーズの後続機「ファントム 2」が発売されて、ドローンの名が一気に世界に知られるようになる。飛行時間は、ファントム1が約10分、ファントム2が約25分。ファントム2では、地図上の通過点を設定できて、自動飛行が可能になった。ロングセラーとなり、現在では、「ファントム4」まで発売されている。(2018年10月現在)

なるほど、これらの動きがあってドローンの世界的な知名度につながり、一般用の民生機器として広まっていくことになったわけですね。

しかし普及した理由は、それだけではないようです。意外にも、ネガティブな話題も1つの要因になっていたのです。


春原氏:
「実はドローンの存在感を
 決定的にしたのは、
 2015年に米国のホワイトハウス、
 日本の首相官邸に
 ドローンが墜落した事件だったのです。

 これらの事件を契機に
 治安維持的な事情もあって、
 世界各国で飛行ルールに関する法整備が
 急ピッチで進められることになりました。

 しかし、これでルールがある程度、定まり、
 このことで各産業への実用化が
 着実に進められている。

  それが現在の状況になります」

◎ドローンが普及した背景

フライトコントローラーの低価格化
  ↓
DJIの登場
  ↓
米国のホワイトハウス、日本の首相官邸にドローンが墜落
  ↓
法整備
  ↓
各産業への実用化

では実際に、現在では、ドローンはどのように使われているのでしょうか? またビジネスや生活にどんなメリットをもたらしてくれるのでしょうか?

ドローン、人間に代わり空で働く

春原氏は「人間が本来持ちえない空からの視点は、想像力を掻き立てる」というロマンを感じさせることを口にしながら、次のように説明を続けます。

春原氏:
「ドローンは大きく分けて、
 ふたつの用途があります。
 
 ひとつは『作業代替』です。
 モノを運んだり、農薬を散布するなど、
 人間がやってきた作業を代わりに
 ドローンがやってくれるというものです」

ドローンが「人間の作業を代替する」という用途では、配達や警備、空撮などが、イメージしやすいと思います。しかし、春原さんは、次のようなことを付け加えます。

「『作業代替』は
 期待されている分野でありますが、
 本格的に普及するには、
    技術や法律などとの兼ね合いから
    実用化までには
    いましばらく時間がかかるでしょう」

◎『作業代替』を行う用途でのドローン活用
・配達
・警備
・空撮
・農薬散布など

データ集めに空ゆくドローン

では、残されたもう1つの用途とは、どういうものなのでしょう?

春原氏:
 「もう1つは、
 空撮も含め、
 空から『データを取得』するというもの。
 実際に用途として
   進んでいるのは後者のデータ取得で、
 僕自身もこちらの領域に従事しています」

「データ取得」という用途に関しては、今ひとつ、わたしたちがイメージするドローンと結びつけることができないのではないでしょうか? 

「データを取得する」という用途を補足して説明すると、次のようになります。

ドローンにはカメラ以外にも、赤外線センサー、レーザーセンサーなど、対象のデータを取得するさまざまな機器を搭載することができます。

例えばこれを農業に応用すると、水や農薬が足りていない箇所や生育むらをピンポイントで正確に知ることができるようになるというわけです。

農業において、これらのデータを得られるということは、言い換えれば、人間の勘や経験に頼っていた農作業がデジタルデータとして「可視化」されるということになります。

それらのデータを活かして、「散布量の削減」や「肥料散布の適正化」が実現すれば、当然、「コスト削減」や「生産量拡大」にも繋げることができるというわけです。

◎ 農業のデータ活用で実現すること

散布量の削減         ⇒  コスト削減
肥料散布の適正化  ⇒  生産量拡大、コスト削減

また、他にもデータ取得の例としては「インフラの点検」が挙げられます。

人間の作業員が陸橋や高架下、ダム、風力発電のための風車、石油プラントなどの点検をする際には、落下事故などのリスクが伴います。

しかしドローンを使えば安全で、点検に要する人的コストも削減することができて、データも取得できる。

日本の場合は特に働き手不足が深刻です。そのため、農業やインフラ整備の現場では、ドローンに大きな期待がかかっているのです。

ドローンは『作業代替』も行い、『データ取得』も行う端末としてのニーズがあるということになります。

なお昨今話題の、人工知能などソフトウェアの発展にはデータが不可欠だとされていますが、ドローンは空から「ビッグデータ」を取得できる数少ないIoT端末としての地位も築いています。

◎『データ取得』を行う用途でのドローン活用

・農業用データ取得(水や農薬が足りていない箇所の情報収集)
・インフラの点検(陸橋や高架下、ダム、風力発電のための風車、石油プラントなど)
              ⇩
ドローン = ビッグデータを空から取得するIoT端末 

この『データ取得』用途でのドローン活用が、きわめて重要になる、と春原さんは言います。

第1回では、これまでドローンがどのような歴史を歩んできて、現在、どんな用途での活用が考えられているか、といういことについて見てきました。

第2回では、ここで出てきた『データ取得』について、もう一段掘り下げて、春原さんに説明してもらうことにします。

セキュアドローン協議会/ IT企業が集まり2016年6月に発足した団体。協議会の名称通り「ドローンのセキュリティ」を高めるための枠組みを、国や関係各所に提言する仕事に尽力しています。
ドローン・ジャパン株式会社/ ドローンビジネスに関するコンサルティング、農業分野におけるドローンの利活用、ドローンに関するソフトウェア教育などを事業の柱としています。
春原久徳/ 三井物産デジタル、マイクロソフトにて、PC黎明期よりPCの普及に尽力。PC分野で蓄積した知見を活かす形でドローン分野に身を投じ、2015年セキュアドローン協議会会長に就任。同年、ドローン・ジャパン株式会社を創設し、代表取締役会長を務める。ICTやリモートセンシングを活用した「精密農業」に注力している。

つづく


セキュアドローン協議会会長・春原久徳インタビュー

目次

第1回  ドローンの過去・現在・未来を語ろう
第2回 地方と途上国の空で活躍するドローン

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