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第1回 尊い仕事  | 女のため息は深呼吸



はじめに|編集室から
新たにはじまるのはフォトエッセイで、ペンを取り、カメラを構えるのは、
写真家であり、物書きの出川 光。
彼女が書くエッセイにはささやかな発見がたくさんあります。取り上げるのは、出産、子育て、働き方、結婚などなど、女性ならではのトピックス。女性による女性のためのフォトエッセイです。その独特な世界観をおたのしみください。


出川 光
1987年生まれ。リクルートを経てチーフキュレーターとしてクラウドファンディングサイトCAMPFIREの立ち上げを行う。その後美大生、美大卒業生むけのウェブメディア『PARTNER』の編集長、『マイナビウーマン』の編集長に就任。現在は、クラウドファンディングサイトMotionGalleryでチーフディレクターを務めるほか、フリーランスとして執筆・撮影を行っている。


はじめに|著者から
31歳、最近女友達との会話にため息が混じるようになりました。幸せが逃げていくと言う人もいるけれど、私には前を向くために必要な甘やかな呼吸のように思えます。

最近、ちゃんとため息つきましたか?

この連載が、あなたの深いため息を誘えることを願って。


写真・文 / 出川 光

女の子なんだから…


女子校育ちの私が初めて男性の腕っぷしを見せつけられたのはアルバイト先でのこと。

瓶ビールがダースで入った箱をひょいと持ち上げる先輩を見て同じようにやろうとしたら、箱と地 面がくっついているようで歯が立たなかった。

上から降ってきた笑顔を覚えている。

「女の子なんだから、そこ置いといていいよ」

リーマンショックを迎えた2010年、お給料が高そうという理由だけで選んだ大手広告会社になんとか潜り込んだ。

入社してしばらくたった頃、取引先で生理痛を起こして立ち上がれなくなった。しばらく休ませてもらい、予定より大幅に遅れて帰社すると上司が顔を引きつらせて待っていた。

「生理痛かぁ。女の子はこれだからなぁ」

寝る前に低容量ピルを飲むようになってあれから8年だ。

大変な仕事をしてないで、結婚したら?

そんな会社は1年ちょっとで辞めてしまい、趣のまったく異なるクラウドファンディングなるものを日本に根付かせようとするベンチャー企業に勤めたりフリーランスをしたりしていた。

が、ひょんなことからまた従業員1万人規模の会社に入ることになった。女性向けメガサイトの編集長をまかされることになったのだ。

新卒で入った会社よりも昔ながらな社風で、入社するとき身元保証人を立てる必要があったほどだ。

この時私は30歳。

黒いワンピースに黒髪のショートカットを 揺らし、「憧れの女性はかの蓮舫先生でござる」という出で立ち。

入社翌日に同い年の男性が近づいてきて、少しの会話で私に結婚の予定もなく子供を持ちたい願望もはっきりとしないことがわかると、さもありなんという調子で言い放った。

「こんな大変な仕事をしてないで、結婚したらどうですか」

言葉を失う私に畳み掛ける。

「統計的に出川さんは出産できるご年齢ですよ」

その時の男性がしていたのと同じように、その会社で働く人の目はどこか覚悟と疲れを帯びていて、寂しそうなのだった。

モテなさそうな色のリップを塗って

一方、私にはもう一つの世界があった。とあるミュージシャンに帯同する
カメラマンの仕事である。撮影するのは、ドームやアリーナを満員にするベテランロックバンドだ。

真っ黒なTシャツとパンツに身を包み、自慢のバズーカーのようなカメラを両肩に下げてライブ会場のトイレで鏡の前に立つ。いかにもモテなさそうな色のリップをぐりりと塗るとカメラマンらしくなった自分が鏡の中で嬉しそうにしている。

どれだけ歩いても疲れないスニーカをキュッキュッと鳴らしながら現場に入る。

何時に現場に入ろうと挨拶は「おはようございます」、きちんと目を合わせて交わす挨拶はお互いのコンディションと信頼関係を確認する機能もあるから誰もおろそかにしない。

それぞれのセクションが熱を帯びていくスピードは不思議とライブを行うメンバーのそれと一致していて本番でピークを迎えるようにできている。

最高のライブが無事に行われることが全員の優先順位一番で、そのためにはどんなことをしてもいいという不文律がある。

一度後ろから、どんっと突き飛ばされたことがあり、なんだろうと振り返ると巨大なクレーンが頭上に迫っていたところだった。

引きずられる体に磨かれた心

ふとした瞬間に息をひそめてスタッフの表情を覗くのが好きだ。

埃っぽい舞台袖でギターをチューニングする時の満足そうな手つき、トランシーバーのイヤフォンを片耳に突っ込んだままお味噌汁をすすり、おつかれさまと微笑むまなざし、ステージのライトに照らされたカメラマンの無敵のウインク。

ここにいる人全員が最高の仕事に巡り会えたことを喜び合っているような瞬間を見つけ、きっと平日のお守りになるからと心にしまいこむ。

荷物と体を引きずるようにして帰宅し布団に倒れ込んでも、大音量が残した耳鳴りの中で目覚める月曜日は心がピカピカに磨かれているのが不思議だった。

お金を稼ぐなら会社にいたほうがいい。

一緒に働いている人は、特別仲がいいわけでもなく年齢はおろか本名すら知らない。

それなのに、この満たされた気持ちは、どうして?

本当に幸せな仕事

最近終わりを告げた大企業での1年は、このふたつの世界を行きつ戻りつしながら、「本当に幸せな仕事」について考えさせられるものだった。

そのトリックさえわかれば、それにゆっくりと仕事をむけていけばいいだけ。

でも、それがお金によって決まるのか、職種によって決まるのか、気持ちによって決まるのか、答えは見えていない。

次回は、その答えを持っているであろう女性にインタビューをしながら、本当に幸せな仕事について考える。

30歳をすぎた頃から、これからの人生も仕事とともにあり、あっという間にすぎていくことくらい予感している。

だから、せめてそれが尊い瞬間の連続であるように願いたいのだ。

つづく


第2回のテーマは、「働く、とは」。筆者・出川 光が、シンクタンク Mirai Institute株式会社を設立した小柴美保氏のもとへインタビューに出かけにいきます。


連載「女のため息は深呼吸」

第1回 尊い仕事
第2回 働く、とは

※ 本連載は、女性文筆家/写真家である出川 光による「女性」を考えるフォトエッセイです。


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