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日本の水は”背水の陣”なのか?| グローバルウォータージャパン 吉村和就 第2話

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

世界でも「水偏差値が高い」と言われる国、日本。
しかし現在、わが国の上水道と下水道は、さまざまな問題に直面しているといわれています。

その理由は何でしょうか? 前回に続き、水の専門家である吉村和就氏にインタビューしました。

吉村和就(よしむら・かずなり)
グローバルウォータージャパン代表。
大手エンジニアリング会社にて営業、経営企画などに携わり、ゼロエミッション(廃棄物からエネルギーと資源創出)構想を日本に広げた。また、国の要請により国連ニューヨーク本部に勤務、環境審議官として発展途上国の水インフラの指導を行う。日本を代表する水環境問題の専門家の一人として、メディアに数多く出演。また日本の環境技術を世界に広める努力を続けている。主な著作物『最新水ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)他多数。

減ってゆく料金収入

吉村和就氏(以下、吉村氏)
「今、実は、この素晴らしい日本の水道システムを維持できない可能性が、日に日に強まってきているんです。まさに背水の陣です。

理由は3つあります。
まずは①カネの問題です。
日本は現在、少子高齢化が進み、人口が減少しています。

人口が減少すれば水道使用量も減る。また電化製品やトイレ器具などの節水機能が向上しました。

これらによっても、水道使用量が減っていく。そうなると、料金収入が落ちる。


例えば、2001(平成13)年に2兆5000億円あった水道料金からの収入は、2017(平成29)年には2兆3000億円に減っているんです。

今後も毎年200億円ずつ減っていくと考えられています。
水道なのに「火の車」状態です。

老朽化する水道管


次に②モノの問題です。

日本には、約66万キロメートルの水道管が全国に張り巡らされています。

地球の円周が約4万キロメートルですから、16周半できる距離です。この気の遠くなるような距離の水道管を維持していかなければなりません。

さらに、水道管の耐用年数は約40年。すでに15%はこの耐用年数を過ぎています。

水道管なんて、
『どんどん工事して交換していけばいいだけじゃないの?』
と思う方もいるでしょうが、そう簡単にはいきません。

現在、水道管の工事には、1キロメートル当たり約1億円がかかるといわれています。

厚生労働省の研究会では、10年後には更新費用だけで8000億円から1兆円かかると推定されています」

とんでもない費用ですね。

吉村氏:
「そのうえ、地球16周半という途方もない長さです。
すべてを交換し終えるには、約130年かかるといわれています。

水道事業を運営するのは自治体なのですが、赤字が常態化しているところが多数あります。

また水道事業だけを手掛けているわけではありません。だから更新費用をまかなえないんです。

実際、水道設備の更新率は年々下がっています。比例するように、老朽化が原因とされる水道管破断事故は年々増えているんですね。

水道業界に人がいない!


そして3つ目の問題は③ヒトです。

ここ最近ですが、水道施設の計画や設計、維持管理を担っていた〈水道人材〉が極端に減っているんです。

30年前には約8万人だといわれていた水道人材は、今や4万5000人まで減っています。

これは、水道業界が成長した高度経済成長期にこの業界へ入った人たちが定年を迎え、その後の長い不況で新規採用を控えた結果、生まれたひずみです。

このカネ、モノ、ヒトの問題は、3つの要素が複雑に絡みあっています。

そして複雑に絡みあった結果、積み上がった有利子負債(借金)が総額8兆円という、とんでもないことになっているのです。

一方、先ほど述べたように、水道料金収入は約2兆3000億円。
しかもその料金収入額は年々下がっている。

解決は一朝一夕にはいきません。いやむしろだんだんと八方塞がりになってきているのです」

日本の水問題の象徴的な出来事

先日、岩手県雫石町で民間水道事業者と地元住民の間で、水トラブルがありましたね。

経営の悪化した業者が住民に追加料金を請求して、応じなければ供給を停止すると通告してトラブルになりました。

吉村氏:
「あの件で私は、あるテレビ番組でコメントをしました。

『これは専用水道であり、自治体(雫石町)は関与していません。あくまでも民間水道業者と民間ユーザーの争いです』と。

その番組中、コメンテーターの方に、
『民間の水道事業者ではなく、自治体にやらせればいいじゃないか』
と言われました。

しかし、雫石はかつて約2万人だった人口が、1万6000人まで減っていて、財政が苦しい。

さらにトラブルの起きた地域は町の中心地から14キロメートルも離れているんです。

1970年代にデベロッパーから町へ水道供給の要請がありましたが、断っています。

その理由は、水道法第2条に、
「国及び地方自治体は『必要な施策を講じる』責務を負う」
と書かれていますが、とても予算が組める状態ではなく、責務を全うできない。

また当時は住民が住んでいませんでした。

この雫石で起きたトラブルは、日本の水問題のこれからを象徴する出来事なのです。

かといって、人の生死に直接関わる水の問題を放っておくことはできません」

もう三重苦で打つ手なし、さてどうするか?そんな四面楚歌の状況の中での一策が、水道法の改正なんですね。

日本の水道事業が大変な理由
1)料金収入の減少
2)莫大な水道管改修費用
3)水道人材の減少

改正水道法は日本の水を救えるか?

吉村氏:
「改正水道法はポイントが2点あります。

1つは、〈規模の経済〉を活用すること。
つまり、自治体が単独で水道事業を運用するには限界がきているので、近隣の自治体と連携して給水区域の広域化を推進している点です。

1万人や2万人程度では、官・民の誰が運営してもうまくいきません。

給水人口50万人が採算ラインだといわれています。この規模なら投資も回収できます。


もう1つは、〈官民連携〉によって、水道事業を立て直そうとしている点です。

自治体だけではどうしても無駄が多くなり、コストが高くつく。そこで民間の創意工夫を水道事業に導入しようというわけです。

これは主に「コンセッション契約」によって行われます。

これは水道事業の実施権限を自治体から民間企業に委譲し、施設の建設から運営までを一括して任せるという契約方式です。

コンセッション契約とは?
・国や自治体など公的機関が、その機関の施設所有権を保有したまま、民間の事業者が運営を行う契約方式のこと。

このコンセッション契約が、国民の皆さんが不安に思っている点なんですね。民間が水道事業を運営すると、

『無節操に値上げを繰り返すんじゃないか』
『水質が落ちたりサービスが悪くなったりするんじゃないか』
『雫石みたいなトラブルが自分たちの地域でも起きるんじゃないか』

と、多くの人が不安に感じていらっしゃる。当然なことだと思います」

海外の水事情

コンセッションって、海外はどうなんでしょうか?

吉村氏:
「海外のコンセッションを見ると、実は過去15年間で37カ国235の自治体において、コンセッションでの運営に失敗し、官民連携から官営に戻しています。

しかし成功例もちゃんとある。例えば英国は成功を収めています。

またドイツでも、国内の水道事業の30%にあたる約2,100カ所で官民連携を行いました。

そのうち失敗して官営に戻したのは、たったの8カ所、0.4%です。やり方次第ではちゃんと機能するんです」

失敗している箇所と、うまくいっている箇所、違いはなんでしょうか?

吉村氏:
「それはチェック機関の有無です。
成功した英国では、DWI(飲料水監察局)、Ofwat(オフワット、水道事業規制局)、CC Water(顧客審議会)という三者が置かています。

この機関は、水質、料金や決算などの財務、苦情処理の側面から民間水道事業者を監督しています。ドイツでも同様の機関を設けています。

改正水道法の問題点は?

しかし日本において、今回改正された水道法には、こうしたチェック機関に関する規定が設けられていません。

この点は不備だと指摘されても仕方がないでしょう。

チェック機関がないという状態は実に怖いんですよ。

水はその土地と密接につながっています。

自治体は、水の事業を通じて、その地域がどういう気象条件にあるのか、地下水がどこから湧き出て、洪水がどの辺りから出やすいのかということをつかむわけです。

ところが、これを民間業者に丸投げしてしまうと、自治体は自分たちの住む土地でありながら、水の状況を何一つ把握できていないという事態が生まれてしまう。

自治体に情報がないままに、民間から『水道料金を上げさせてくれ』と言われたときに判断のしようがない。

私が皆さんにお願いしたいのは、もしお住まいの自治体が水道事業を民間に委託したいと言い出したら、
『チェック機関はどうなってる?』
『野放しではまずいことになるぞ』
と行政や議会に働きかけてほしいということです」

こうやってお話しを伺っていると、なんだか面倒なことになってきているようですね。

吉村氏:
「でも現実問題は面倒だなどと言っている場合ではないんですよ。

なぜなら、約8兆円の借金を約2兆3000億円の収入で返済し、なおかつ老朽化した設備を新しくしなければならないのですから。

私は、このような施策をした上で、なおかつ水道料金を現在の2~3倍上げなければ、日本の水道は立ち行かなくなると予想しています」

改正水道法のポイント
1)〈規模の経済〉を活用してビジネスを広域化する
2)〈官民連携〉で水道事業を立て直すためにコンセッション契約を行う

改正水道法が話題になり、私たち日本人は将来の水のことについて、もっと真剣に考えなければいけないフェーズに立っているのではないでしょうか?

今目の前にある、日本の水道にまつわる問題、どうやら抜本的な解決策を早急に立てることが必要のようです。

次回は吉村氏に、海外での事例などを絡ませながら、日本の水ビジネスの将来について、語っていただきたいと思います。

次回へ続きます。

第1話 “水に流せない”水ビジネスのはなし
第2話 日本の水は”背水の陣”なのか?
第3話 日本は他国と“魚と水”の関係になれるか?

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